「110番」
物騒な話ではありません!!
料理の110番のお話です。
今からかれこれ40年近く前東京に住んでいた頃、日本橋たいめい軒という洋食屋さんのご主人茂手木心護さんが料理の素朴な疑問に電話で答えてくださる料理110番という窓口を開設していらっしゃって、結婚間もない私は何かと利用させて頂いていました。
ただ料理が好きというだけで何もわからず日々の食事を作っていた頃で、結婚祝いに叔母からプレゼントされた暮しの手帖社の「おそうざい12ヶ月」と、「おそうざい風外国料理」という2冊の料理本を頼りにあれこれ作っていくと、あれっ?!これはどうして?という素朴な疑問だらけ、そこで利用させて頂いたのが、洋食屋さんたいめい軒の料理110番です。お昼時などは行列の出来る人気店で、いつも活気にあふれた店内は、本当にお忙しそうでしたが、若気の至りで先方のご都合おかまいなしに、素朴な疑問を投げかけさせて頂いていたにもかかわらず、どんな時でも「あいよ!」と電話口で適切なアドバイスをくださり、その簡潔かつ明確な答えは私の料理の強い味方となりました。
今懐かしく当時を振り返り、たいめい軒のホームページを見ると、創業昭和6年、料理110番は何と昭和35年から始められていたとの事。飲食店を生業としていれば、忙しい毎日の中そんなボランティアの様な事はよほど懐が深い、料理を心底愛している方でなければ出来ないことだと思い返します。
今は三代目が店を切り盛りされている中、初代からの意思を引き継ぎ、料理110番は健在とのこと。
現在は手の空いている厨房の料理人の方々が交代で答えているとのことです。
私が茂手木心護先生から答えをいただいていたのは、昭和40年代後半、53年に亡くなられるまで洋食一筋に歩まれていた先生に、料理を目指す未来などまだ何も分からない頃に出会っていたことが、遠い日の不思議な記憶となってよみがえります。
当時先生から教えていただいた、たいめい軒の名物料理「コールスロー」はキャベツ、人参、玉ねぎ、塩、砂糖、酢、油だけで作るシンプルなサラダですが、それ以来ずっと作り続ける私の定番料理。今もなお料理教室の生徒さんにも必ず伝授する一品です。
当時日本橋たいめい軒には2〜3回お邪魔して、お姿もちらっとお見かけしましたが、明治生まれの気骨ある洋食屋の主、その迫力にお声などかけられるわけもなく、お電話での短くも愛情あふれるお答えが私のかけがえのない宝物となりました。